21/12/08 日本語の見方とは何か ~籾山洋介『日本語は人間をどう見ているか』

平成29,30年に告示された新学習指導要領において、各教科において「見方・考え方」を働かせることが目標に入ってきましたが、その文言をどのようにとらえるかは難しいところであり、解説を読んでも分かったような分からないようなところです。

例えば中学校国語科では「言葉による見方・考え方」に関しては、次の記述があります。

言葉による見方・考え方を働かせるとは、生徒が学習の中で、対象と言葉、言葉と言葉との関係を、言葉の意味、働き、使い方等に着目して捉えたり問い直したりして、言葉への自覚を高めることであると考えられる。

 

今回は、そんな言葉による見方・考え方を考えるヒントになるかもしれないと思って読んだ本の感想です。

出版されたのは2006年と、今回の改訂よりずっと前です。

 

大まかな内容を説明すると、この本は、日本語の様々な表現のうち、人間や人間組織の営みを、人間以外の存在やそれに関する言葉を用いて表したものに着目して、私たちが人間の存在を様々な側面に着目して表現してきたことを明らかにし、その理由を考察しています。

具体的には、「植物」「鳥」「天気」「機械」「想像上の存在」として人間が表現されているところを主に扱っています*1

 

そして、終章ではこれらの表現が用いられてきた理由を考察しています。

  1. 人間の営みと比べて、変化が顕著であり目につきやすいため、より明確に分かりやすく、効果的に表現できる
  2. 人間以外のものの方が理解しやすい(人間以外のものを通してみることで、人間理解を試みる)
  3. 婉曲表現や誇張表現

 

読んでみて思うこととしては、出てきている表現自体はどれも目にしたことがあるものであるにも関わらず、今まで筆者のようなくくりで考えたことがなかったということです。

表現技法として比喩を用いることであったり、その意味を考えたりすることは学んできましたが、どうしてそう喩えることができるのか、他に喩えられないかと深めてくることはしてきませんでした。筆者の分類に当てはまらないもの(他の動物など)もあるし、外国語では象徴するものが異なる表現もあると思うので、あくまでこの本はきっかけ・入門書ではあると思いますが、「言葉への自覚」を高めていきたいと思いました。

 

また、「言葉による見方・考え方」はなにか難しいことを新たに獲得するというものではなく、母語話者として意識せず身に付けているものを見つめ直し、意識的に使っていくということなのかもしれません。(母語話者として身に付けているはずというラインが変化してきているのは近年の課題かもしれませんが)

 

文学だけでなく評論でも説明のためのたとえ話が出てきます。教材を扱う際に、「比喩に気を付けて読む」というところから、一歩進んだ授業を考えるにあたって、一本軸を与えてくれるような本でした。

 

 

*1:「植物」の例:花開く、実を結ぶ、散る

「鳥」:巣立つ、古巣、羽ばたく

「天気」:表情が晴れる・曇る、天気屋

「機械」:安打製造機、歯車、故障、ねじをしめる

「想像上の存在」:女神、仏、鬼、悪魔