20/08/22 尾崎紅葉『金色夜叉』

こんにちは。

今回は、『金色夜叉』を読んだ感想を書きます。

なんとなく文学史か何かで名前だけは知っていましたが、ちゃんと読んだのは今回が恥ずかしながら初めてでした。 

金色夜叉(上) (岩波文庫)

金色夜叉(上) (岩波文庫)

  • 作者:尾崎 紅葉
  • 発売日: 2003/05/16
  • メディア: 文庫
 
金色夜叉(下) (岩波文庫)

金色夜叉(下) (岩波文庫)

  • 作者:尾崎 紅葉
  • 発売日: 2003/05/16
  • メディア: 文庫
 

 

 

主人公の間貫一は許嫁の鴫沢宮を富豪の息子・富山唯継にとられ、高利貸しに身を堕とす。一方で富山との結婚生活に愛がないことに気が付いた宮はよりを戻そうと貫一に迫るも拒絶される。というストーリーで、様々な人生観・哲学が登場します。新聞に連載されていましたが、作者尾崎紅葉の死で未完結のまま終わっているようです。

 

まず最初に読んで面白いと思ったのは、現代の少女漫画にもありそうな物語進行で、二人の仲がどうなるのか気になってどんどん読めてしまいました。格式高いとされる地の文に読みにくさを覚える場所もありましたが、会話文も多く全体としては十分読めました。100年以上前に書かれた文章を読み、楽しむことができるというのはそれ自体がなかなか面白いことですし、言文一致を知識だけでなく、実感として味わえるのはよい経験でした。

 

さて、そんな枝葉の話はそれぐらいにして、内容について書きます。間貫一が途中から陥る「金色夜叉」としての生き方は、人の恨みを買ってでもお金が第一であり、純粋なる愛を求めつつ信じられない生き方であり、様々な人から改心の機会が与えられます。しかし、意地っ張りな貫一は結局その生き方を基本的には変えられないのです。作者が生きていれば違う結末もあったかもしれませんが、おそらくハッピーエンドにはならないと思います。

個人的な好みだけでいうなら、主人公に好意を寄せる赤樫満枝あたりが目を覚まさせ、宮の元に送り出して結ばれるという安直なハッピーエンドになってほしいですが、そう簡単に生き方を曲げられない貫一の弱さがもどかしくも気になってしまうのです。高利貸しが性に合っているわけでもなく、他をすべてなげうってでも富を築いてやろうという気概もなく、かといって他の何かを信じることもできない悲しさもキャラクターの魅力でしょう。

 

有名な作品ですし、様々な考察はあると思いますが、差し当たって一つ気になったものがあったのでそちらをご紹介します。

島内景二さんの『文豪の古典力 漱石・鴎外は源氏を読んだか』という本の中で、尾崎紅葉源氏物語を執筆前に読んで(読み直して)おり、作中で源氏物語と似たような関係が出てくると指摘されています。

源氏を踏まえつつも、時代に合わせて人物を作り上げ、魅力的な文章を書くのは尾崎紅葉の手腕であることは間違いありませんが、千年以上も生きる目的を見つけられない男と、愛がほしい女という構図が読み継がれてきていることはとても面白い事実です。

 

明治時代の文章でもさまざまあり、共感できるものもあれば古い価値観に基づくシーンもあり本当なら注釈書を脇に置きつつ、読みを交流しながら読みたいところです。ましてもっと前の文章になると読んでみたいという興味はありつつなかなか手が出ません。

本を読むことすら減ってきているのに、古い本だとなおさら受けないよなあと思いつつ、読んでみると意外と面白いよと将来言えるように今のうちに色々読んでみようと思います。

なお、原文で読むことと、やさしい現代語訳、漫画や映像等でストーリーを追うことの違いの一つには表現の美しさに気づくことだと思いますが、今回はそこまで味わう余裕がありませんでした。ある程度慣れてくると、読むうちに使ってみたい・口に出したい素敵な表現に気づけるのかもしれませんが、そこに至るまでのハードルがなかなか高そうです。

 

何かおすすめの本があれば紹介してください。時代は問いません。